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仙台高等裁判所 昭和27年(ラ)23号・昭27年(ラ)22号 決定

本件競落許可決定は、左の理由により違法であるから、取消さるべきである。

一、本件競売申立債権は、債権者及び債務者は夫々同一人であつても各別個の三口の債権であり、その抵当物件も異るに拘らずこれ等抵当物件を一括して単一価格をもつて競売したことは違法である。即ち、

(一)  申立債権のうち、金八十万円と金三十七万円の二口については、建物及び工場設備につき抵当権の設定はあるが、宅地については抵当権の設定がなく、又金三十万円の債権については、宅地二筆についてのみ抵当権が設定されているから、右債権の一方を弁済すれば、これに対する抵当権の実行は直ちに取消さねばならないわけであるが、単一競買価額では、その取消されない方の抵当物権の価格を決定する方法がなく従つて競落せしめる方法がないのであるから、全部競落を取消さねばならなくなる違法がある。

(二)  民事訴訟法第六百七十五条は競売法による競売手続にも準用される結果、一括競売は、申立債権額及び手続費用の弁済所要額以上の抵当物件を競売する不当の結果を生ずる。

(三)  一括競売によつては次順位以下の各抵当物件を異にする債権のある場合、それ等の抵当権付債権に対し何程宛売得金の配当を為すべきやにつき算定方法がない。

二、本件競売手続においては、各物件毎に最低価額を定め各別に競売する趣旨の公告をしたに拘らずこれを一括競売したことは民事訴訟法第六百七十二条第三号により総ての利害関係人の合意を要するに拘らず合意なくして売却条件を変更した違法がある。

というのである。

よつて順次判断する。

一、抵当物件が数個ある場合において、これを一括して競売することは、わが競売法、民事訴訟法上これを禁止する旨の規定は存しないから、常にそれが許されないものとすることはできないが、数個の抵当物件を一括して競売に付すべきかどうかは各具体的事案に即してその当否を判断しなければならない。而して、同一債権者が各別の債権につき各別個の物件に夫々第一順位の抵当権を有し、更に右物件全部につき債権者を異にする第二、第三順位の共同抵当権の設定あるとき、抵当物件全部の競売代金を以て抵当債権の総額を完済するに足らないような場合には、一般的にいつて一括競売が相当でないものということができる。しかし、この場合においても、抵当物件の評価が各別になされ、その評価額を以て第一順位の抵当債権を各別に完済するに足るものであり、且つ一括競売による最高価競買価格が右抵当物件の各評価額の合算額より多額である場合においては、必ずしも一括競売が許されないものとはいえない。蓋し、前記の場合に一括競売の許されない所以のものは、各抵当物件の価額が定まらなければ各抵当債権に対する弁済額を算定することができないからであるが、抵当物件毎に評価がなされ、その評価額が、各抵当物件の担保する第一順位の各抵当債権を夫々弁済するに足るものであり、且つ一括競売による最高価競買価額が右評価額の合算額を超えるものである場合には、各抵当物件の価額もまた、夫々評価額を超えるものと推定されるから各抵当物件をもつて、夫々右抵当物件の担保する第一順位の抵当債権を弁済するに足るものと認め得べく、この場合には、最高価競買価額から第一順位の抵当債権の合算額を控除した残額につき、第二順位以下の各共同抵当権者に対する弁済額を算定することは可能であるからである。

本件記録によれば、本件競売は、岩手県気仙郡末崎村字峯岸百四十九番地上、家屋番号末崎村第六十三番の三、一、木造瓦葺二階建加工場一棟、建坪百五十一坪五合、二階坪七十二坪五合外三棟の建物及び右加工場に備付てある機械器具(以上を以下第一物件と略称する)に対し、金八十万円と金三十七万円の二口、合計金百十七万円及びこれに対する昭和二十六年四月一日以降日歩四銭の割合による遅延利息につき第一順位の抵当権(極度額百五十万円)を、及び同所百四十九番の一、一、宅地六百八十四坪八合外一筆の宅地(以上を以下第二物件と略称する。)に対し、金三十万円の債権につき第一順位の根抵当権(極度額三十万円)を夫々有する株式会社岩手殖産銀行の申立により右抵当物件が一括して競売に付され、原審の競落を許可した最高価競買価額が金三百七十二万円であること、本件競売に際し、抵当物件の評価は各別になされ、その合算額をもつて一括競売の評価額としたこと、右評価額は、第一物件は合計金百六十五万円、第二物件は合計金二百万円であること、第一、第二物件に対しては、気仙郡漁業協同組合連合会が金百万円及びこれに対する昭和二十六年一月一日以降日歩二銭六厘の割合による利息及び遅延損害金の債権につき第二順位の共同抵当権を、末崎村漁業協同組合が、金七十九万五千六十二円六十三銭及びこれに対する昭和二十六年六月二十一日以降年一割の割合による利息及び遅延損害金の債権につき第三順位の共同抵当権を有するほか、大船渡市が優先徴収権を有する公課金合計二十五万六千四百六十三円の交付請求をしていることが認められる。そうすると、右最高競買価額をもつてしては、抵当債権の総額及び優先権を有する公課金の合算額を完済するに足りないけれども、前記抵当物件の評価額によれば、第一、第二物件ともその担保する第一順位の各抵当債権及びこれに優先する公課金を完済することができるものと認め得られる。従つて第一、第二物件の評価額の合算額より多額である最高競買価額から、右公課金及び第一順位の抵当債権の合算額を控除した残額につき、第一、第二物件につき夫々第二、第三順位の共同抵当権を有する抵当権者に対する弁済額を算定することができるから本件一括競売をもつて許されぬものとすることはできない。

(一)  抗告人は本件の場合第一順位の一抵当債権についてのみ弁済ある場合には、他の債権につき担保する抵当物件の価額を算定する方法がないから、結局全物件の競落を取消さねばならなくなるから、一括競売は許されないと主張するけれども、本件については、弁済があつたことは認めるに足る資料がないのであるから、抗告人主張の理由をもつて直ちに本件一括競売が許されないものとすることはできない。

(二)  本件の場合、弁済所要額以上の抵当物件を競売する結果とならないことは前に説明のとおりであるから、抗告人の(二)の主張も採用できない。

(三)  については冐頭に説明のとおりであるから、これまた採用できない。

二、本件記録によれば、本件競売につき最初になされた昭和二十七年四月十二日附競売及び競落期日の公告には、不動産の表示の末尾に、一括合計金三百六十五万円也との記載があり、右は本件抵当物件を一括して競売に付する趣旨であることは、一見明かであるから、本件競売は当初から一括競売に付せられたものというべく、個別競売から一括競売に変更せられたことを前提とする抗告人の主張は採用できない。

以上のとおりであるから一括競売が不当なことを前提とし、本件競落許可決定の取消を求める本件抗告は理由がないものといわねばならない。

昭和二十七年(ラ)第二三号事件の抗告理由は、

抗告人は、昭和二十七年五月二十三日の本件競売期日に競買の申出をなし、最高価額であつたので保証として右申出額の十分の一にあたる金額を金三十七万五千円、支払人を東北銀行一関支店とした抗告人振出の小切手を執行吏に渡し執行吏はこれを受取つた。従つて執行吏は抗告人を最高価競買人とすべきに拘らず、これと異るが如き不確定の取扱をしたので、原裁判所に異議の申立をしたところ、原裁判所は、昭和二十七年六月十三日、次順位の競買申出人をして最高価競買人と定め、同人に競落許可決定を与えた。しかし、抗告人振出の小切手は前回競売期日においても執行吏が有価証券と認めてこれを受領した前例があり、前記小切手は支払人に呈示すれば何時でも支払を受け現金化することができるのであるから、原裁判所が最高価額で競買を申出た抗告人をおいて、次順位の競買申出人をもつて最高価競買人と定め、これに競落許可を与えたのは違法である。

というのである。

よつて按ずるに、競売法上競買人に競買価額の十分の一にあたる保証を立てしめる所以のものは、最高価競買人が競落代金の支払をせぬため再競売となつた場合において、再競買価額の不足額及び手続費用の負担の担保となし、以つて最高価競買人の義務不履行を防ぎ競売を確実にするにあるから、保証として立てる有価証券は、競買申出価額の十分の一に相当する実価値があり、且つ容易にこれを現金化し得るものでなければならない。然るに、本件記録によれば、本件競売期日に際し抗告人が保証として立てようとしたのは支払人の支払保証のない抗告人振出の小切手である。

支払人の保証のない小切手は、支払人から支払を受け得るかどうか不確定のものであり、而も本件競売事件においてさきの競売期日、即ち昭和二十七年四月三十日の競売期日に最高価競買人と定められた後藤栄が保証として立てた抗告人振出の小切手は不渡となつたため、新競売期日が定められて競売が実施せられたのであるから、執行吏が抗告人の右小切手の提供をもつて、競売法上適法な有価証券による保証の提供と認めず、抗告人の競買を許さずして次順位の競買価額の申出人末崎村農業協同組合をして最高価競買人と定めたのはむしろ当然の措置というべきであつて、その後において抗告人が右小切手の支払保証を得たとしても、競売期日当時適法な保証の提供があつたことにはならないのであるから、抗告人を競買人とすることはできない。原裁判所が、末崎村農業協同組合を最高価競買人として、これに競落許可をしたのは違法ではない。

以上抗告人等の主張はいずれも理由がなく、その他記録を精査するも、本件競落許可決定を取消すべき手続上の瑕疵は認められないから、本件各抗告はいずれも棄却さるべきである。

よつて、競売法第三十二条第二項、民事訴訟法第六百八十二条第二項、第四百十四条、第三百八十四条に則り主文のとおり決定する。

(裁判官 谷本仙一郎 猪瀬一郎 石井義彦)

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